ポケモンGOは任天堂の本命か
ポケモン金銀ぶりにポケモンに触りました。どうも、某麻生氏の言う、外に出た引きこもりオタクです。
ポケモンGOでバッテリーが尽きるより早く、本人が力尽きるので、バッテリーはいらないな。
触ってみた結果、ポケモンGOがあまりにも、岩田任天堂の産物すぎて感涙したので、遅れた追悼記事として書きました。
結論を先に。
任天堂の狙いは、ゲームのすそ野を広げること。
ポケモンGOは、布石の一つでしかない。
(ピカチュウは進化させる派です。
ライチュウかわいいやろ!!)
●任天堂のブルーオーシャン戦略
任天堂は自称「中小企業」です。法律的には大企業ですが、ブルーオーシャン戦略を得意としています。ゲリラ戦とも言う。
同じものを出したらあかん。同じことをやって競争したらケンカの強いヤツが勝つに決まっとる。任天堂は力のケンカなどするな。よそと違うから価値があるんや。前社長の山内が盛んにいっていた言葉です。ここにDNAがある。(岩田聡前任天堂社長)
岩田社長が語る「Wii誕生の目のつけ所」 「正解は静かに去っていったゲームファンが教えてくれた」:PRESIDENT Online - プレジデント
なにより大事なことは、娯楽というものは飽きられるものだということ、ここが必需品と根本的に違うところです。必需品は飽きられない。そして基本的には、安いほうが売れる。ある品物が売り出されて、それに遅れて同じような品物が売り出された場合、必需品なら二番手でも安いほうが売れます。しかし娯楽は二番煎じはダメです。たとえ安くても売れない
(『産業大転回のシナリオ』田原総一朗著、日刊工業新聞社1988年)(山内溥元任天堂相談役)
ホコタテブログ : 任天堂 山内語録
だから、自分のところしか、出せないものがつくれたら最高です。しかも、それが大衆の懐勘定と折り合いがつき、しかも多くの人たちが初めて体験するような珍しさと楽しさとおもしろさを味わわすことができさえすれば、これは円高でも何でも戦えます。そういう新しい新製品の開発ができるかできないのかということが決め手になってきます
(中谷巌著『日本企業復活の条件』東洋経済新報社、1993年)(山内溥元任天堂相談役)
ホコタテブログ : 任天堂 山内語録
誰も見たことのない、新しくておもしろいものを、子供に買ってあげられる価格で作る。最先端技術を投入する他社とは、別のところに目的を設定している会社です。
技術はよそに頼り、組み合わせの新しさ、提案の丁寧さで、一般に届くようにラッピングする。翻訳者のような仕事が任天堂の本質です。少なくとも、三代目山内氏のときはそうだったし、四代目岩田氏もその路線を継いでいたと思っています。
実際任天堂は、ファミコン時代からけったいなこと*1をしていたり、スーパーファミコン時代に衛星通信にチャレンジしていたり、失敗だろうというような新しいものを生み出し続けています。
何より、三代目山内氏のこの言葉は、任天堂の空気を象徴していると言えるでしょう。
市場調査? そんなことしてどうするんですか?
――なるほど、その結果に基づいた商品を開発したときは、ユーザーの気持ちは離れているということですねたしかに、そういったタイムラグという問題もある。でもね、任天堂が市場を創り出すんですよ。調査する必要などどこにもないでしょう
(高橋健ニ著『任天堂商法の秘密――いかにして“子ども心”を掴んだか』祥伝社、1986年)(山内溥元任天堂相談役)
ホコタテブログ : 任天堂 山内語録
任天堂マニアにとって、WiiUの陰りも、Miitomoのつまづきも、将来への種まき(芽吹かなかったやつ)でしかありません。いつかこの経験が生きるかも知れない、そうバーチャルボーイのように*2。
●DS Wii の新機軸
四代目社長、岩田聡氏も、三代目山内氏の路線を色濃く反映していきました。すなわち、新しくておもしろいものを作る、です。
山内氏が退任前に残した課題への答えとして発売されたDSは、当初のゲーマーの反応は賛否両論でした*3。
ゲーマーを黙らせるためなのか、「DSとは別にGBAの後継機も作っています」と発表したほどです*4。
それでも、任天堂はCMの雰囲気をポップに変えたり、体験会を開いたり、今までのゲーマーとは違う層へ向けてアピールを続けました。
母親がCMを見たおかげか、子供向けに一台という、GBAの持っていた地盤は早くに飲み込んだようです。
ここで任天堂は新たなユーザーの開拓に打って出ます。CMを見て、子供にゲーム機を買い与える側の人間。つまりは大人です。
それまで、ゲームは子供のもの、いつか卒業するもの、という価値観が多勢をしめていた、と記憶します。
一部学習ソフトもありましたが、子供向けが主流、ゲーム機は子供のもの、電車でゲーム機で遊ぶのは、子供かオタク、という状況でした。
そこに登場したのが「Touch! Generations」と銘打たれた、ゲームをしたことのない人に向けての、ゲームらしくないゲームです。
任天堂は子供*5相手につちかった、おもてなし精神を存分に発揮し、nintendogs、脳トレ、えいご漬け、お料理ナビ……と、ゲーム機を触ったことがないだろう人たちに向けたゲームを発売していきました。
その後発売されたゲーム機、Wiiでも同じ路線をつづけます。ボタンのいっぱい付いたコントローラーを使わなくても、リモコンを振り回すだけで遊べるゲーム機。
WiiSportsやWiifitで、家族とリビングでゲームをする、という構図は、ゲーム業界では少なくなった光景を蘇らせ、Wiiはスマッシュヒットを叩き出しました。
任天堂はWiifitで「世界一売れた体重計」という、よくわからんギネス記録を獲得しています。
DS,Wiiは任天堂にとって、ゲーマーではなく一般人をまきこんで、市場を席巻した大当たり期間となりました。
(経済系ニュースはこのときの任天堂と比べたがるんで、どうしても「今の任天堂は低迷」という論調になるんですよね。)
ゲームらしいゲームを望んでいたゲーマーからはいやな顔をされつつ……の大当たり期間であったことは、任天堂自身も自覚していました。次のゲーム機、Wii Uではカジュアルユーザーとゲーマーとの共存を目指していたのですが……。結果は微妙に終わりそうなところ。
最近業界の流れが変わって、再編時期なのかもしれません。
●「ゲーム人口の拡大」
WiiUでは苦戦している任天堂は、なぜ苦労してでも、ゲームに慣れていないカジュアルユーザーにアプローチを繰り返すのでしょうか。
1つに前述の「ブルーオーシャン戦略」があります。ゲーマー向けゲームはすでに過当競争の域に入っており、莫大な予算と開発期間、オンライン対応、発売後のサポート、と中小企業に手を出せるものではなくなってしまいました。
任天堂も日本では大企業ですが、世界規模にするともちろん上が居ます。
ゲーマー向けゲームは、最近大量の作業を必要とするものがトレンドです*6。
少数精鋭で挑むには、分の悪い戦いでしょう。
また、ファンに求められたものを、求められるとおりに作る、新規客は求めない、という商売は、先細りを招きます*7。
多様性こそ業界の成長のカギ、と新しいアイデアを投入してくれる会社が、
そのために、「ゲーム人口の拡大」という言葉を使って、発信してくれる会社が、
そして、過去にゲーム人口の拡大を実践した会社が同じ言葉を使うことが、
どれだけ頼もしいことか。
正直、私の趣味じゃないゲームもありますが、任天堂が新しいことを続ける限り、ゲーム業界のドンとして信用していけると思っています。
●再び拡大されるゲーム人口
ポケモンGOはまず、スマホゲームをやる人にすさまじい勢いで広がりました。ほぼ同時進行で、ポケモン世代、ポケモンを知っているけれど、今はゲームをしていない人にも広がりました。
ピカチュウなら知っている程度のカジュアルユーザーまで巻き込んで、一大ブームになる。
通り道の公園で、子供が、大人が、スマホをのぞき込み「あ、ピカチュウ!」と声を上げる……。
「ピカチュウ?」と自分のスマホを覗き込む。友達に「ここにピカチュウがいる!」と説明する……。
そんなCMのような光景が現実に現れる。
この様子はかつて、脳トレでDSを国民的ゲーム機に押し上げたときを思い出します。今回はDSとは違い、スマホはすでに行き渡っていた分、ブームまでのスピードがとても早い。
(過熱しすぎて摩擦も特需もすごいらしいですが、そのあたりは引きこもりには荷が重いのでよそに任せます)
ポケモンが元々持っていた「1人では集められない。一緒にあそぶ友達がいると楽しい」という特性は、ポケモンGOでも予定されています。
今はまだ、ハイレベルゲーマーの殴り合いですが、ここにポケモンと写真を撮りたい層、コレクションを集めたい層が参加することになる。
ポケモンと写真を撮る、コレクションするなら、ゲーマーのように毎日やらなくても、自分のペースで進めることができます。
ゲーマーとカジュアルユーザーの間に、ポケモンの話という共通の話題ができる。
初対面の人と、天気、食べ物、ポケモンの話ができるようになるかもしれないですね。
●ポケモンGOは任天堂のゴールではない
ポケモンGOでゲーマー以外の層にもアピールする。ここまではDSで脳トレをヒットさせたときと似ています。
ではポケモンGOで興味を引いた後は任天堂はどうするでしょうか。
実はもう情報はでています。
当社におけるスマートデバイス事業の目的は、主に3つです。
スマートデバイスを活用し、任天堂IP(知的財産)に触れていただく人口の最大化を目指します。
もちろん、スマートデバイス事業単体での収益化を前提とし、
さらにゲーム専用機事業との相乗効果を生み出すことで、任天堂の事業全体の最大化を目指します。
2016年4月28日(木) 決算説明会
つまりは、すそ野を広げて、ゲームに興味をもってもらうこと、です。
私たちにとって一番収益性の高いビジネスは自社のゲームソフトビジネスですので、そこに、お客様のアテンションが集まったり、認知をしていただいたり、親しみを感じていただけるようにするために、
「ニンテンドーIPがどういう場所に出て行くと任天堂にとってプラスになるのか」、
それも、「短期でなくて中長期、また、キャラクターやIPが消耗され・消費されるのではなく、価値が積み上がっていく方向にどうすればなるのか」、
ということを重視しています。
(中略)
スマートデバイスゲームも同じように位置付けられていくと考えていただくと、先ほどお話ししたこととつながるのではないかと思い、補足させていただきました。
2015年5月8日(金) 2015年3月期 決算説明会 - 質疑応答
しかも、恐ろしいことに、これら決算説明会の中に、ポケモンのスマートデバイスゲームの名前は出てきません。
2017年3月までには、(『Miitomo』を含めて)5タイトル程度リリースする予定ですが、次に出てくるアプリは秋ですので、(後略)
2016年4月28日(木) 2016年3月期 決算説明会 - 質疑応答
これを素直に読むなら、夏に出たポケモンGOは、任天堂は計算に入れていません。
ポケモンGOを使って、カジュアルユーザーにポケモンの魅力を打ち出して、ゲームも出ますよ、3DSとセットでいかがです?とオススメしていく。
さらに他のタイトルも、他のタイトルも……とくり返せば、ゲーム機にさわってもらう機会も増える……。
ここまでやれば、任天堂得意の自社ハードでの勝負に乗せることができるでしょう。
むしろ、集客をねらうためには、ポケモンGOで利益を出す必要は低いとさえ言える*8。
スマートデバイスでのゲームビジネスを展開することは、ゲーム専用機が衰退すると考えているからではなく、
スマートデバイスでのゲームビジネスを展開することで、より多くのお客様に任天堂IPに親しんでいただき、より多くのお客様にビデオゲームの魅力に触れていただいて、ゲーム専用機のゲームにも触れていただきたいと思っています。
そのためには、両者の間に架け橋を架けていく必要があります。
2015年5月8日(金) 決算説明会
2017年3月までには、架け橋となるべく、他のスマホゲームもリリースされるでしょう。
それにあわせたキャンペーンも行われるでしょうか。
個人的には、このへんで噂の新型ゲーム機の情報持ってくるんじゃないかな、と楽しみにしていますが、どうなるでしょうか。
●一度まとめ
- 任天堂はゲーム機をあきらめていない。
- 任天堂は話題を作ってゲームを手にとってくれる人を増やしたい。
- 任天堂は自分の得意な土俵で戦いたい。
- ゲームに興味ない人もスマホでポケモンGOを楽しんだなら、任天堂の計画通り。
- ここまで岩田社長時代からぶれない姿勢。
- おそらく次の大きな動きは秋。
これで、片面。
任天堂のこれからのはなしでした。
*1:関西弁で「へんなこと」の意味。ファミコンをネットにつないで株取引ができたり……。
*2:黒歴史とまで呼ばれた、3D表示のできるゲーム機(1995年発売)。売れなかった。見た目VRディスプレイにそっくり。
*3:といっておきますけれど、2ch見てた感覚としては、PSPにグラフィックが劣る、タッチパネルって触ったら汚れる、2画面って必要? とダメ出しの方が多かった印象が。
*4:そのときのログは見つけられなかったです。切れ端http://sp.logsoku.com/r/2ch.net/ghard/1297930548/
*5:ここでは、世界一飽きっぽく、つまらないと正直に止める人たち、の意味。
*6:オープンワールドとか最たるもの。ゼルダのオープンエアー化は少なからずびっくりしたんで、機会があれば別項で。
*7:参考:男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第275回「新規とマニア」 - 4Gamer.net
*8:任天堂としては。 協業のナイアンテックは利益を出したいでしょうから、ポケモンGOで安売りするようなことはないと思いますが。