なくて七転び

精神病こじらせたゲーマーが私の見える景色を残しています

人狼知能による「人狼小説」

 「日経星新一賞」は「理系的発想力」で生み出された小説をテーマに、理系協賛企業を集める文学賞です。
 「人間以外」が応募することも可能。


 2016年、第3回星新一賞には、コンピュータを使用した小説が11編応募されました。

 内2編はNHKニュースでも取り上げられた、「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」が出力した小説。
(プログラムの作りがアレと同じやー! というツッコミはこちら



 2編は、人狼知能プロジェクトに寄せられたAIによる、人狼ゲームを下敷きに書き起こした小説でした。

こちらで公開されています。(S,L共にPDF)
第3回日経星新一賞応募作公開|Artificial Intelligence based Werewolf

 人狼バカでAI好きの私が人狼知能を見逃している訳がないでしょう。
ということで、人狼知能による小説の見所問題点をいきましょう。


 全編私見でお送りします。

●題材としての人狼ゲーム

 人狼ゲームは頭脳戦、心理戦、ジレンマ……と、ミステリー読者を引きつけてやまない題材がてんこ盛りの魅力的な題材です。

 詳しく語り出すと止まらないので、各自適当に調べていただきたいのですが、軽く説明すると、言葉のやりとりだけで嘘つきを見つけだす、バレないように逃げ切るチーム戦です。
 詐欺師養成ゲームです。

「犯人はこの中にいる!」なゲーム 人狼 [ゲーム業界ニュース] All About


 2013年頃から流行っている人狼ゲームは、「対面人狼」、対面代わりの「短期人狼(チャット型)」が主なようですが、人狼ゲームには「長期ネット人狼(BBS型)」と呼ばれる流派も存在します。

 BBS型はゲーム中一日の議論に実際の24時間をかけることが特徴で、いろんな可能性を検討することができます。
 感情的な判断と、理論的な手順が、同じまな板に乗り、最終的に多数決で決まる様は、暴力要素を排除したデスゲームのようなおもむきを持ち、ミステリーのような読後感にだだハマりです。

 嘘つき狼チームが勝ったときには詐欺師養成ゲームの側面が強くなり、コンゲーム(信用詐欺)のように。
 見破る村人チームが勝ったときにはぶつかり合いを乗り越えた、友情もののように。
 ときには、あっけなく終わってしまうライブ感と共に。

 そして、自分もその紡ぎ手になれる可能性に。

 思えば相当な時間を人狼に食われているものです。オタクとはこういうものですかね。


 人が遊んでいるのを見るだけで楽しいゲーム。
 題材としての魅力は、人狼ゲームを元とした映画、舞台、などの派生作品を見ても明らかでしょう。

舞台で人狼ゲームをするグループ
人狼TLPTとは


●小説としての問題点

 着眼に問題がないとして、「人狼小説」はどこに問題があったのでしょう。
 読んでみた方は、読みにくさを感じたのではないか? と思いますが、その理由をあげてみます。

・言い換えの問題

 「人狼小説」はSFの世界観に合わせて役職の言い換えを採用していました。
 人狼=AI
 占い師=アナリスト など。
これが裏目に出たのが、アンドロイドが暮らすという世界観とバッティングしたところです。

  • アンドロイドとAIの違いは?
  • アンドロイドと人間の違いは?
  • 最終行の意味は?

 ディストピア系SFなどでは、人類vsコンピュータという図式はありふれたものですが、その世界観で読んでいいのか、情報が示されていなかったため、なにが敵だか分からないまま終わってしまいました。

 アンドロイド=肉体、AI=知能、と保管するには、他の知識が必要だったように思います。

 この項目は、アイデア一発で解消できるものだったので、残念。

・イニシャルなどで語られるキャラクターの掘り下げ不足

 それぞれのAIに名前は付けられていますが、演じるキャラクターは、
「M」「切れ目の男」「最初に名乗った女性」など、名前未満の呼ばれ方をされていて、総じてキャラが薄かったです。

 TYPE-S、Lで同じプログラムが使われていて、執筆者にとっては区別の必要を感じなかったのでしょうが、
ゲームの中で、ひいては小説の中で一個人として扱われていないと、個人とは認識できません。
 プログラムの見分けがつかない一般人に向けるなら、擬人化のように個性を強調したほうが、生身の人間として受けとめやすかったのでは? と思います。
 よく分からない機械の群れとして表現するなら現行の手法はいいですよね。


 ……私のように、生ログをみて戦略にツッコミを入れるコア層狙ったわけではないですよね?

・感情移入の問題

 上記二つの問題によって、読者は誰と一緒に悩めばいいのか、というところから悩みます。
 トリックだのの前に、見分けがつかないので、「死んだの誰?」というついて行けなさは、かなりもったいない。

 星新一賞の文字数制限は存じませんが、肉付けの不足、またはショートショートにするには大きすぎる題材を選んでしまった? のでしょうか。

ショートショートにおける皮肉不足

 私見丸出しですが、
ショートショートは短いからこそ、プロットにテーマを込めるものではないかと思います。
 正確に言うなら、テーマはプロットに入れないと入れる隙間がない。

 そして、長編では語りにくい皮肉なテーマすら飛び交う、チャレンジングな舞台がショートショート、という認識です。
 「人狼小説」にはテーマらしいもの、執筆者の主張を感じにくく、他のあくの強い主張に埋もれたのかな? と推測します。

他ろくに読んでないけどな


人狼ゲームとしての戦略の問題

 人狼バカ本領分野。
 チャット型とBBS型でかなり違う戦略論ですが、私の地盤BBS型でお話を進めます。
 このカテゴリは「人狼小説」の問題点というより、「人狼知能」そのものへの提案です。

・何して初日潜伏進行なんですか。

 BBS型では一部の例外を除いて取られることがない、潜伏進行が採用されています。
 潜伏進行とは、占い師・霊能者をオープンにしないで進める進行です。
 対面・チャットでは役欠けがあることもあり、採用されているようですが、
BBS型では狩人の存在による襲撃抑止力、能力者同士の判定の無駄、24時間の話し合いの種に、初日にフルオープン(占い師・霊能者共にカミングアウト)が主流になっています。

 無駄占いが多発するのは「人狼小説」でも見られましたね。
 狂人も吊るのが前提ならば、偽の白黒なんて価値がないのです。灰を占え。

 そして、初日カミングアウトで次の項目も防げます。

・被狼判定からカウンターカミングアウトなんて怪しすぎて(L)

 怪しすぎて、逆に意図的にはやらない? 1周回って本当かもしれない? ……というレベルで怪しい。
 しかも、たまたま、占い師と名乗った人を占っていたとな?
 これはラインのできた霊能者まで怪しい。
 私なら、口では可能性も考えるよ、といいながら無視する。AIはピュアでしたね。

 今回は真占い師から狼判定、狼が占い師を騙る、という展開だったので、先入観のままで大丈夫でしたが、
狼が真占い師に狼判定を出して、先手を取っていれば、とても恐ろしいことになっていたでしょう。
 狼が占い師を見つけるのが難しいので、人間はあまりやりませんが。

 初日カミングアウトなら、(比較的)フラットな状態から、占い師を見極めることができるので、占い師はオープンしてることが多いです。

・初手占い師吊り(L)

 今回のレギュレーション、ダミー込み11人は4手です。4回の吊りで狼を吊り切らなければいけません。
 そして、TYPE-Lでは初回吊り前に2-2(自称占い師・自称霊能者が2人ずつ)になっています。

 ここで村側が取る戦略は、

  1. 霊能者決め打ち(1人を真だと判断し、その判定に従う)
  2. 占い師決め打ち
  3. 両方決め打ち
  4. (次項)

のどれかしかありません。
(初回吊りの状況では。この後状況が変わります)

 全ローラー(自称能力者を全部吊れば、真を犠牲に偽が全滅する)をするには手が足りません。
(普通は偽能力者に狂人が混ざります。狂人は狼側ですが狼ではなく、狼吊りの条件に当てはまりません)

 そして決め打ちの際に、信用に足るかどうかの見極め材料が多く、信じた判定の価値が大きくなるのは、占い師です。

 一般的なBBS型の試合では、判定の貴重さから、占い師を決め打ちに備えて精査しつつ、霊能者ローラーになるでしょう。

 TYPE-Lではこの後、狩人が護衛に成功し、1手追加されることで、全ローラーを完遂+潜伏狼吊りのチャンスを確保していますが、本来村側は際どい試合運びでした。


 BBS型では基本、村は仕掛けないで待ちが強いとされます。
 1日増えれば反論する時間考える時間が増えるからですが、襲撃で議論する人をコントロールされる、と引き伸ばすのを嫌がる人もいます。
 時間をのばす方が好まれるのが、今までのトレンドでしょうか。

 この時間稼ぎの思考が、霊ローラー教徒を生み出すのです。

 確定すれば雑用まとめ役にされ、対抗がつけば真っ先に轢かれる、まこと霊能者とは哀れな存在。

たまに対抗付き真霊がやりたくなる、早く吊られて楽チン観戦。

・4.霊狂みなし放置(L)

 ところでこの試合ログ、占い師同士が互いに狼判定を出しているので、どちらが本物でも、占い師-偽占狼の組み合わせで確定です。

 ここに「狂人は偽能力者になる」と言う前提を追加できるなら、霊能者-偽霊狂も確定し、「霊能者はどっちも人間なので、どっちも吊らない」という戦略も検討できるようになります。

 騙らない狂人、潜伏狂人はハマればいいんですが、ハマりどころが少ないんですよね。

 ハイリスクであまり好まれず、潜伏する狂人は極わずか。
 この細い枝を切る覚悟があるなら、霊狂人放置、その分の吊りで潜伏狼を狙う、という進行もできるかと。


 以上、呑みながら手順話を語るコーナーでした。
牛乳だよ

人狼ゲームを元にしたシナリオの問題点

 人狼ゲームを元にシナリオを書こうとすると、ゲームルールとシナリオの間に齟齬が生まれやすいポイントがあります。

・登場人物が多い

 最低4人からゲームは可能ですが、役職などが絡み合ってハプニングが面白くなってくるのは、10人~(個人的意見)。
 これだけの人数を紹介して、読者に覚えてもらうにはかなりの文字数を必要とします。

・生死を前にチームプレイはできるのか

 人狼ゲームはチーム戦です。これは、自分の命よりチームの利益を優先する、その行動を前提とするという状況を生み出します。
 占い師がカミングアウトすることは、狼の標的になることと引き換えに、チームに情報をもたらし、チームの意見を聞く機会を作るのです。

 シナリオの舞台設定によっては、ゲーム上の死亡が、キャラの死亡である場合があります。(デスゲームだとほとんどそうですね)
 このとき、チームのために命を投げ出せるのか、は人狼二次創作をするときの大きなテーマになります。


 一応、BBS型の一部には「死んだら負け」というルールがあるのですが、あまり実績はないんですよね。

・物語として面白いのは狼勝ちではないか問題

 どういうシナリオを読みたいか書きたいかによるんですけど、
最後の決断が外れていた、という、どんでん返しができるのは、狼勝ちのときだけ。
 一番ドラマチックな展開を求めると、狼勝ちばかりになりそうです。

 ルール以外のところで勝敗を曲げるならできますが。

人狼小説はどうしたらいい?

・キャラクターがわかりにくい

 BBS型にはキャラクターを演じてプレイヤーIDを隠す文化があります。
 キャラ付けに、キャラチップを使う(または参考にする)のは良いんではないでしょうか。
 人狼リプレイ動画では、版権キャラが人狼ゲームに参加する体で進みますが、こういうのも参考になるのでは。
(版権キャラを無許可で使うのは問題がありますが)

・戦略論がまだ伸びしろ多い

 人狼知能にプレイヤーは関わってないんでしょうか?

人狼BBS 手数計算機
などもありますし(使ったことはない)、手順はAIの得意分野かなと思うのですが。

 霊ローラー理論はこちらに詳しいので丸投げします。
霊ロラ概論

早く人狼知能と戦略話をしたいです。
狩人初日COとか、戦略的にどうですか。
感情的に反発されるので黙ってるんですが!

・ライターを付ける?

 小説として面白くするには、人狼ゲームのどこを切り取るか、なにに注目させるか、というところに気を配る必要があり、ここはまだ人の手が必要なのかな、と思います。

 人狼ゲームを魅力的に見せるにはどういう味付けをしたらいいのかについては、人狼モチーフでスマホ用ADVを書いたライターさんがうにゃうにゃ言ってたのでこちらも。リンク先ネタバレ。
レイジングループにおける「狐」とは? | ケムコのアドベンチャーポータル


●かなりのダメ出しをしたけれど

 初めて人狼BBSのログを読んだときの「こんなに素晴らしい物語が、実話だなんて!」という衝撃は、10年経ってもいまだに色褪せません。

(誰だ十年一日って言った奴)

 実際に人をだましたりすれば、犯罪になりかねませんが、小説の中で体験できるならば……クライムサスペンスというジャンルは人気がありますよね。


 「人狼小説」は十分に魅力的なモチーフだと思うのです。

 それだけならず、AIだからこそできる「人狼小説」はきっとあります。
 今回、面白い展開になるまで、1万試合をこなすという力業を見せてくれたのも、コンピュータならではです。
 他にも、人ではとても実現しそうにない、大量のキャラクターを使った群衆劇なんてこともできそうです。


 今後の「人狼小説」と「人狼知能」の発展を心待ちにして、今日は寝ます。


 チューリングテストができる日を夢見て。

 定型文だけで進行する村、とかならAIと人の混合戦できそうかなーなんて。


「果たして仲間を追放するなどという非人道的なことを、彼らが行うものでしょうか?」
「いや、彼らはそういうことを平気で行うのだ。そこが AI の恐ろしいところだ」

>汝は AI なりや?TYPE-S P4-5

 お前らも無実の仲間を追放したところで同類ですよねえ?

「AIは追いつめられた時感情的に振る舞い、同情を買うのが得意だと聞いたが、我々はその実例を見ているのかもしれんな」

>汝は AI なりや?TYPE-L P5

 言葉の凶器がぐっさり刺さった!
 私にクリティカルダメージ!(←良くやる人)
 これ、謝罪会見で号泣するパターンだと思う。


第2回AI戦大会も楽しみな人狼知能サイト
Artificial Intelligence based Werewolf